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どこかの国の物語
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作詞 リンクス |
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卑屈に生きる鴉 無邪気に遊ぶ燕
同じ黒を纏う者
片方は 気にも留めずに飛び回る
片方は 心の芯まで闇色に染めた
鴉の黒い心の前に 燕は清く美しく
艶めく翼を翻し遊ぶ 無邪気な彼らが妬ましく
彼らが去り行く秋の日を 暗い塒で待っていた
ある春 白い鴉が生まれた
他の鴉は彼を忌み 妬ましさ故に追放した
白い鴉は泣きながら 傷付く我が身を呪ってた
“嗚呼 この身体が黒ければ
独りの苦しみ 寂しさに
泣くこともないだろうに”
その時一羽の燕が言った
“どうして貴方が 嘆くのですか
心の黒い彼らには
貴方が眩しすぎたのです
どうか その身を嘆かずに
堂々として 生きましょう”
白い鴉は嬉しくて
涙を流して感謝した
傷にちょっぴり沁みたぶん
心の傷は 癒えていった
“これから 僕が生きるのは
君から貰った その言葉
何気なく言った その言葉を
偽りと しないためだけに”
白い鴉はその後に 燕を「友」と呼ぶように
清い燕もそれを受け 彼を「友」と呼んだのだ
幼い二人は お互いに
いつまでも 友人だと思っていた
・・・秋が近付く、その日まで
彼らは知らなかった
お互いが 殺し殺される関係だったことを
幼い燕は 母に言った
白い鴉と友達だと
飛ぶのが遅くて 相手にされなかった僕を
友達と言ってくれた 唯一の鳥だと
あの子だけは違うのだと・・
母は言った
“早く 早く 飛ぶ練習をしなさい
でないと そいつに殺される”
秋が来る
支度をして 急いで南へ
早く 早く
鴉に見つからないように
早く 南へ
南へ行かなきゃ
殺される
幼い燕は悲しくて
皆の言うことを 信じなかった
“あの子は白い
外見だけでなく その心まで
雲のように穏やかで優しい
僕が見る あの黒い鴉とは違う
それに 同じ燕だって
僕を疎むじゃないか
僕は 彼を信じよう
彼もきっと 僕を裏切るまい”
秋が来る
燕はもうじき 帰るだろう
列を邪魔して 脅かして
隙のあるやつは 殺してしまえ
目障りなやつは 殺してしまえ
そいつの首が 我らの御馳走
白い鴉も テーブルに?
白い鴉にもちかけた
「お前の飛べない燕を 殺せ」
「殺せば 仲間に入れてやる」
「もう独りじゃなくなる」
“どうしよう どうしよう
底なしに優しく
潤む瞳は 常に夢見ているようで
たとえ 飛ぶのが遅くても
外見が 僕とは違っても
彼だけが仲間だと思ってた
でも 違うんだ
あの子は燕で 僕は、鴉だ。
白くても、僕は鴉だ”
幼い鴉 あまりに無垢で
善悪判断つけられず
毎晩現る鴉の誘い 正しいように思えてくる
嗚呼 もう少し大人なら
どちらかなんて 迷わぬものを
嗚呼 幼くて純粋で
素直な君が 黒く成る
“僕があの子を 殺したら
あの子は 南へ行かれない
あの子は 僕から離れない”
列成す燕の最後尾
幼いながらも懸命に
南へ向かって 去っていく
心の黒い集団は
彼らを目がけて急降下
黒い翼がぶつかり合う中
白い鴉は天使のよう
白い天使は 泣いていた
“さあ、やれ!”
たくさんの黒い嘴の前に
舞い降りた白い鴉
泣きじゃくる燕は
仲間と信じる白い鴉へ
躊躇うことなく 近付いていく
何が起きたか わからない
堕ちていく 幼い燕
黒い羽 銜えた天使・・いや、悪魔?
月に照らされ 濁った瞳
太陽の下でも 変わらない
・・・喰い千切られた 小さな片羽
驚きが 痛みを超える
幼い燕は哀れにも
片方の羽を失った
見開いた目 夢など見ておらず
戸惑いのみが 見え隠れ
“どうして どうして?
君だけは 仲間だと
信じてたのに・・信じてたのに”
列成し飛び去る燕の姿
最初から そこに僕などいなかった
涙で曇った瞳に映る
歪み拉げた蒼穹と 白い羽持つ幼い悪魔
嗚呼、僕にはもう
あの空は遠すぎる
・・・どうして 僕は
こんなことをしてしまったんだろう
友達だと 堂々と生きましょうと
言ってくれた 唯一の友人
形だけの「仲間」のために 本当の友人を失った
紅にまみれた 君の片羽
心の黒い集団は 君を渡せと言いに来た
絶対 渡すものか
案の定 傷だらけになったけど
誰かから 罰せられたかった
馬鹿なことをしたと なじってほしかった
君の痛みを 僕にも頂戴
君の痛みを わかれたら
僕ら また「友達」に戻れるかな?
泣きじゃくっていた 傷だらけの白い鴉
嗚呼 泣かないで
僕は大丈夫 飛べなくたって
君は 君は
一緒にいてくれるんだろう?
僕は大丈夫
君は 泣いていたから 震えていたから
もう一度 信じているよ
・・・・・・
気がつくと 日はとっぷりと暮れていて
柔らかい大鋸屑に包まれていた
隣には 真っ赤な目をした 白い鴉
こっちが哀しくなるくらい
沈んだ顔で僕を見た
“よかった よかった
ごめん ごめんね”
泣き崩れてる 君を見て
全てを許せた気がしたよ
“もう一度 あと一度だけ 信じるから”
そう言って 笑った僕にポツリと言った
“仲間は君だ 君だけなんだ”
白く大きな羽広げ ふわりと僕を抱きしめた
僕も残った片羽だけ 白い悪魔を抱きしめた
たとえ姿が違えども 僕らは仲間になれたのだ
お互いの温かさが お互いを温める
愛おしくて
切なくて
苦しくて
もどかしい
わからない感情に押し流されて
僕らは ただ泣きじゃくった
・・・僕は、赦された?
君はどうして
どうしてこんなに、
こんなに 穏やかで優しいんだ
いつも いつも
怖いくらいの優しさが 僕を包んでくれている
冬になると 雲のようなものが降るらしい
冬だって 経験したことないけれど
「燕」は 死んでしまうかもしれないのに
“君の羽が 降ってくるみたいだね”って
嬉しそうに 笑って言った
冬だけじゃない
これからの四季ずっと
僕らは、ずっと二人で
温められた大鋸屑の上 眠くなる
緑で美しく染められた丘
咲き誇る花々に混じって
高い声で餌をねだる燕の声
生まれきた燕よ 大空は楽しいだろうか?
地を這う僕に 何を見せる?
空の向こうは きっと碧めき
ただじっと 君を待つ
夢を見ていた瞳には
限り知れぬ蒼穹が映っていた
片羽をなくした燕よ 僕は君に何ができる?
夢見る瞳に 何が見える?
空の向こうは 確かに在って
ただきっと 僕らを待つ
片羽をなくした燕よ 大空へ昇れ
紅葉の舞う丘を 駆け上がれ
哀しみの向こうは 朱く色付き
ただじっと 秋を待つ
美しい白い羽
もう誰も 鴉とは思うまい
白鳥のように 彼は穏やかだ
鴉が持つ 鋭い目を
彼は持っていない
瀲灔のように煌めく瞳に 僕を映す
これからの旅支度への 喜びと期待で
胸をいっぱいに膨らませている
背には僕を乗せて
僕らは 飛び立つ
木陰で休み
日向で遊び
僕らを認めてくれる場所を探そう
見知らぬ場所へ向かって
計り知れない空へ向かって
僕らは 旅立つ
秋の日に
僕の片羽と引き替えに
愛すべき美しい友人を得た
彼の背は広く、心地よい
僕らは旅に出るのだ
さあ 別れの挨拶を
秋の日に 得たものは
失ったものより はるかに価値あるものだった
姿など、魂の器にすぎない
姿など、何の秤にもならない
僕は白で 友人は黒
愛する黒の友人と
僕らは旅に出るのだ
さあ 別れの挨拶を
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