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彼は笑ったんだ
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作詞 名無しP |
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久しぶりに会った彼は、酷くやつれていた。
名前を呼んでも、揺さぶっても、怒鳴っても何も反応がなかった。
医者に聞いた話だと、孤独に耐えられなくなり、法外な手段で手に入れた薬を大量に飲んで瀕死の状態を家族に発見され、病院に入院することになったそうだ。
「彼は、こちらに戻ってこれるんですか」
医者と目を合わせないで、私は聞いた。
言いづらそうに医者は言った。
「難しいでしょうね」
私が、彼の助けになれたのに。
唯一同じ次元で理解し合えたのに。何故、放って置いた。
彼は、どこか遠くを見ていた。
彼の好きな歌を歌った。彼はこちらを見るでもなく、変わらず遠くを見ていた。
私は泣きじゃくりながら最後まで歌った。それくらいしか出来る事などなかった。
歌い終えたあとも、私はしゃくりあげて泣いていた。
彼は気がつくと私を見ていた。
パクパクと口を動かした。
慎重に読み取った。
「へ た く そ」
それだけ言った後、少し、笑った。
笑ったんだ。見間違いじゃない。確かに彼は笑ったんだ。
笑ったんだ
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