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落としもの
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作詞 小雨ねむ |
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昨日叩かれた頬は腫れていた
教科書は破り捨てられていた
命を軽視するその言葉に
染められて捨てられていた
教室には席がなかった
今日もまた叩かれた頬が痛かった
声を出しても空気かのように
それでなくとも誰も目も合わさないのに
常にひそひそ陰口の対象
人間一人として最小
息苦しいこんな場所
生きるのも困難な場所
今日と同じ明日をたどるなら
お父さんお母さんさようなら
インクが滲んだ手紙を置く
臆病も置いて屋上から飛ぶ
最後まで嫌った世界の姿
下で慌てる教師が無様
まるでここは人間のゴミ置き場
ふちから見下げ飛び降りた
落ちていく
落ちていくこの命
とっくに捨ててきた明日への見込み
神様に届かなかった祈り
どこにいてもいつもひとり
地から天に命届けるか
地面に触れるその刹那
最後の言葉も終わって
時間も全て止まって
僅かに残った悔いか
まぶたの裏に焼き付いた
写真に残された少女が
記憶の中の情景が
過去の記憶を辿りゆく
白い砂と青い水
静かに揺らめく波の音
海というものをはじめて知った時
その時はじめてこの世界は
美しいものだと知ったんだ
友だった子と見た淡い夕景も
裸足で歩いた暗い夜道の風景も
母に叩かれてできたアザと
閉じ込められた押し入れの中も
酷く泣いた布団の中も
最後にはちらつく記憶なんだ
目を開くと地面がすぐそばに見えた
地に触れる間際白く消えた
意識はどこか遠く遠方
次に見た景色は白い天井
すぐにわかった病院と
聞こえる涙声は両親の
幾年ぶりに目があったんだ
そうか私は死ねなかったんだ
落ちていく
落ちていくこの涙
わけもなく突然泣き出した
殺していた声が口から出そう
なぜ涙を流しているのでしょう
生きている息をしている
いや違う生かされている
私は飾りか形があるかないか
その形に悲しみ喜び綻び
この碁に及んで
進んで戻って澄んで淀んで
もうわからないよ
もうわからないよ
生きていくことを否定され続けて
自分を守る軟弱な砦も崩れて
テープで止めた心も張り裂け
間違いだらけの感情を掃き溜め
下と上が入れ替わった
落ちていく世界でわかったんだ
生きていてもいいんだって
それだけでよかったんだって
落ちてくる
落ちてくる母の涙
これまでの距離を埋めるように
穴の空いた心に触れるように
赤ん坊を包んでくれるように
儚くて美しくて
知っているなによりも暖かくて
ただここにいたくて
きっとこれが正しくて
手がぬくもりが触れている
袖が優しく濡れている
生きている生きてくれていることに
あの人たちは泣いているの
落ちていく
落ちていくこの涙
静かに雫が落ちる音がした
私も同時に泣き出した
ずっとずっと待ちわびた
赤く腫れた目の下
温度がわかるこの手のひら
えもいえぬ思いがした
探していたなにかに届いた気がした
きっと命あることに鼓動の音に
困難なこんな世界でも
生きていることに
涙を流しているのでしょう
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