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バツイチの女探偵が居る探偵局
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作詞 にいなシオン |
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「妹の恋人を捜して下さい」 開口一番客は言った
青年と妹は幼少に 親の事情で引っ越したという
その前日妹が体調を崩し 別れを伝えられなかったと
「僕の大切な妹が 彼を思って泣くんです」
写真も無い名前も曖昧 情報があまりにも足りない
「待ってくれこれがあるから 三人揃いのキーホルダー」
んなもん相手方は 忘れて捨てちまってるだろう
「確かにそうかもしれないけど これだけが頼りなんだ」
いいからさっさと帰んな どちらにしろ受けられん
「明日もここにきますから」 休日は営業してません
なんとか客を追い返して 私はとりあえず息をつく
「帰ったぞ母さん」 こちらを見ずに息子は言う
軽い人間不振に陥り 息子は人と目を合わせない
「明日は家に居るから」 携帯をいじりつつ息子が言う
「約束通り来ましたよ」 ご丁寧に妹も連れて
約束なんてした覚えはない 大体今日は営業してない
「待ってくれお願いだから 僕は彼に謝りたいんだ」
いくら言われたって 今回は無理なんだ
「本当に伝えなきゃいけないことが 謝らなきゃいけないことが」
君らのそのエゴで 彼が傷つくとは思わないのか
「何を言われたって 伝えなきゃいけないことが」
真剣な顔に根負けして 私は静かに息を吐いた
客だぞと一言 平常心を保ち呼ぶ
あの日から人を信じない 哀れな私の息子を
「何だよ母さん」 息子は言いかけ息を飲む
「何で君がここに居るんだ」 「それはこっちの台詞だろうが!」
「僕はただ君を探しに来たんだ 妹の大切な恋人を」
「恋人だなんてよく言えたな 何も言わずに消えやがって」
「そんな言い方ないじゃない 手紙で全て伝えたでしょう」
「手紙なんかもらってない」 「いいえ私は書いたもの」
「あぁ妹は手紙を書いたよ 連絡先も書いた手紙を」
「そんなもの俺は見ちゃいない 俺を裏切って消えやがって」
「それは僕のせいなんだ」 兄はそう言った
あの日の日付が書かれた 古びた手紙を差し出して
「ごめん二人とも」 頭を下げ兄は泣いた
「彼女はいつも君の話をして 僕は君が羨ましかった
だから手紙を隠したんだ 妬み続けるのがつらくて
でも君に会いたいと泣く妹をを見て 僕は前よりつらくなった
でも君も引っ越していたから 探偵局を訪ねてまわった」
皆黙りこくっていた 正直私も驚いていた
「お前本当に最低な奴だな」 息子が口を開いた
「お前ら仲良し兄妹のくせに 妬ましかったのはこっちの方だ」
「だから泣くんじゃねぇよ」 息子は笑いながら言う
あの日以来初めて 息子はまっすぐ人を見ていた
「彼女がお前の心配するから 俺また嫉妬しちゃうだろうが」
「俺だってお前の話されてたんだぞ」 青年は驚いて妹を見る
「私は二人共大好きだもの」 そう言って彼女は笑った
「大体私だって嫉妬してたのよ だってあんた達二人でいる方が楽しそうなんだから」
「つまりはお互い様ってことかねぇ」 そう言って三人は苦笑する
息子が携帯を手に取ると 時代遅れのキーホルダーが揺れた
二人も携帯を手にとって キーホルダーと懐かしい笑顔
少し寂しそうにでも嬉しそうに 青年も恋人たちと笑った
ハッピーエンドってことか 心配して損したよ
バツイチの私は悔しくなって 残された青年を抱きしめてみた
顔を赤くする青年を見て 私も久々に笑った
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