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捨て犬
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作詞 熊子 |
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貴方の仰る言葉の意味が判りません。
私には理解できません。
何故なのですか。如何してなのですか。
貴方に何の権利があつて私を置いていくと云ふのでせうか。
私が独りで生きてゆけぬことをご存知なのでせう。
だつたら何故、私を捨てるのですか。
此処に捨てられた私は、貴方の迎えをきつと疑はず、毎夜毎夜月を仰ひでは、明日は貴方が必ず迎えに来てくださると思ふに相違ありません。
小さな箱に押し込められて貴方に「さよなら」を云はれても私は貴方を信じてゐます。
明日、貴方は私を迎えに来て、強く抱き締めてくれると信じて疑ひません。
私は貴方の忠犬なのです。
だから貴方に捨てられたくはありません。
ずつとお傍に侍らせて戴きたいのです。
貴方は私を一度囲ひました。
だから私の命が絶えるまで、ずつとお傍に置いておいてください。
「後生です、お願ひです。どうぞ、お傍に」
私はそう泣き喚くのですが、貴方は無情にも私を箱に押し込んでしまわれるのです。
街を抜け、ずつと遠くの見知らぬ寂しげな山中に、私は箱ごと貴方に置き去りにされました。
遠ざかつてゆく貴方の白いセダンは、一瞬の躊躇も見せませんでした。
貴方が迎えに来てくださらなければ、私は雨風の寒さに震え、空腹に呻き、寂しさに泣きながら死んで逝くしかありません。
どうか、後生です。
どうか、お願ひです。
私を迎えに来てください。
私はこうして何も飲まず、何も食はず、ただひたすら貴方を待ってゐます。
いいえ、もう貴方のお傍で暮らさなくても良いのです。
最期に、貴方のお顔を拝見させてください。
あゝ、早くしなければあなたのお顔も見れないかもしれません。
眼が、霞んできました。
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