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【ドライブ】
作詞 GABA
雨の8月
古見本通りの自転車屋の前を歩いていたら
パチンコ店の軍艦マーチが
耳障りになり
後ろを振り向いたら
お前がぽつんとひとりで
ピンクの傘をさして
ビーチサンダルを履いて立っていた
俺が「何をしてるの」と聞くと
泣きながら「待っていたのよ」
「何かあった・・・・・?」
傘をさしたまま走ってきて
涙流しながら
「お疲れ様仕事辛かった」
と聞くから
「全然」
お前の方は
「ちょっとアクシデントが」
俺が「まあ看護師だから仕方ないよ」雨の中を
「ハンカチ出して」
「涙でも拭きなよ」
ととりあえず近くの駐車場に
停めてある車にでも一緒に乗ろうか
「お前タオルひとつ持ってないかい」
「あるわよ」
俺は顔と腕と手を拭きながら
俺たちは駐車場に乗り込みそこを出た
とりあえずは佐大熊の友達ところにでも寄って
「バナナでも持って行けばいいんじゃないの」
と言って俺がいうと
「そうね」
涙止まり笑顔で
お前に話しを向けて
「なあお前」
「う、うん」
「そのうち暗くなるだろう」
「う、うん」
「まあ後は鳩浜のアパートまで送るよ」
「う、うん」
「その前にこの辺にうどん屋があれば」
「うどんでも一緒にすすろうか」
「う、うん」
「それとも名瀬の街並みの夜景でも」
「見物しようか」
「う、うん」
明日は仕事休みと俺が聞くと
「う、うん」
よし「朝までドライブとしけこむか」
と話しが変わり
すぐに名瀬港を見渡せるところの
鳩浜のスタンドでガソリンを満タンにして
夜の繁華街をとばしながら
入舟の信号機が赤になっていて
運が悪いなといいながら独り言をつぶやき
雨も上がり
消し忘れたワイパー止めて
シャッターを下ろしたまんまの鹿児島銀行を眺め
やけに後ろの車のクラクションがうるさいと思ったら
信号機が青になっていて
直進していくと
何年か前の奄美交通の
待合室と広い駐車場に
黄色い帽子に笛を首にぶら下げて
待合室の角のところで
バスの誘導をしていた
小太りのおじさんは
どこへ行ったんだろう
なんとなく寂しい気持ちになり
と思いつつ
妙に海が気になり
「さあ名瀬港でも見に行こうか」
「なあお前」
「う、うん」
港に着くと
どでかい貨物船が入港していて
時間を見たら
午前1時をまわっていた
俺が「運転変われ」
「う、うん」
「サイドシートで仮眠を取るから寝る」
とお前に言うと
お前は
「う、うん」
それから1時間ほど経ったかな
サイドシートを起こして
目をこすり
見覚えのある校舎が視野に入り
「笠利の赤木名の大島北高の前を走っているの」
と聞くと
「う、うん」
「正門前で停めてくれないか」
というと
「う、うん」
助手席のドアを開けて
正門の前のタンポポを見つけ
手に取ってふっと息を吐き
白い実が回りに飛び散り
霜が降りる
暗い中を
体育館を眺め
63歳にして
思い出し
卒業式には出たかった
あの頃の
高校時代に
腹が立って
悔しくて悔しくて
腹の底から涙が出た
「風邪ひくわよ」
と運転席のウィンドウガラスの隙間からお前の声が聞こえた
俺は小走りに車のドアを開け助手席に乗った
「次は俺の故郷である集落のあるところをまわってくれないか」
と俺が言うと
お前は運転しながら
「う、うん」
集落に着き
「やっぱり国道沿いの角の散髪さん屋はあるな」と見て
「息子は二代目だって」
お前は
「う、うん」
「一代目のお父さんには良く散髪してもらったな」
と心に思いつつ
「もう何年か前に亡くなっていない」
「もうそろそろ名瀬に帰ろうか」
「う、うん」
奄美空港の手前の集落の
ソウルオリンピックに出場した
レスリングの和人君の実家の万屋の
お店屋さんの栄枝商店で
缶コーヒーでも買おうか
お前は相変わらずトマトジュースか
「う、うん」
さあ名瀬名瀬名瀬
「2、3日この車をお前に貸すから」
「鍵は俺のホームの下駄箱の上に置いとっていいから」
「俺を住家まで送ってくれ」
「俺がお疲れさん」
と言ったらお前は
「う、うん」
気が付いたら
午前10時をまわっていた
「明日からはお互いに仕事だから頑張ろう」と
俺が言うと
車の中でゆびきりげんまんして
ホームに着いてお前が
「今日はゆっくり休んでね」
と小さな声で
ささやくから
「やっと普通に戻れたわよ」と
髪をひとつに束ねて
バックミラーを覗き
ダッシュボードに視線を向けて
「私ってきれい」と
聞くから
俺が「ああ」
うなずき
心の中で
お前が元気が出てよかった
「今度も仕事の休みが重なったら」
「またドライブしようか」
俺が言ったあと
助手席のドアを軽く閉めて
車の中から笑顔で頷いた
そのあと俺がウィンドガラスを指で軽く叩いたら
お前が手を振って車を発進させた

作成 令和5年8月20日
随筆 GABA

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公開日 2023/09/25
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