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むく犬
作詞 まふな
 『イイ子で待ってるんだよ』
 あたしの顔を両手で包んでくしゅくしゅっとやる、主のいつものやり方。
 温かくて、心地よい手。
 けれど、しばらく愛撫を受けられない。
 主は今日、鉄の翼に乗って、いつもお伽話のようにあたしに聞かせてくれた国に行く のだという。

 『じゃあな』
 
 あたしの頭を軽く叩いて、軽い足取りで主は旅立つ 胸の中には夢だけを詰め 瞳  は前しか向いていない

 あたしのそばには、主がくれたヌイグルミ。あたしが淋しがらずにすむようにと置  いてった。

 バカ野郎。こんなので淋しくなくなるならあたしはあんたなんていらないよ。
 バカ野郎。どんな所にいてもあんたがいれば平気なことぐらいわかるはず
 主の置いていったそれに、あたしは噛み付いてやろうと思ってでもできなかった。


 真夜中。飛行機の音で目が覚めた。
 空には満月。薄紫色の、まっすぐな飛行機雲。
 あんなに月に近くて、あんなにまっすぐ。あんなに綺麗。
 あぁ、あぁ、あれは主の乗っている鉄の翼に違いない。

 あたしは夜空を見上げ、長く、長く、吠えた。

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公開日 2007/03/02
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