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むく犬
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作詞 まふな |
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『イイ子で待ってるんだよ』
あたしの顔を両手で包んでくしゅくしゅっとやる、主のいつものやり方。
温かくて、心地よい手。
けれど、しばらく愛撫を受けられない。
主は今日、鉄の翼に乗って、いつもお伽話のようにあたしに聞かせてくれた国に行く のだという。
『じゃあな』
あたしの頭を軽く叩いて、軽い足取りで主は旅立つ 胸の中には夢だけを詰め 瞳 は前しか向いていない
あたしのそばには、主がくれたヌイグルミ。あたしが淋しがらずにすむようにと置 いてった。
バカ野郎。こんなので淋しくなくなるならあたしはあんたなんていらないよ。
バカ野郎。どんな所にいてもあんたがいれば平気なことぐらいわかるはず
主の置いていったそれに、あたしは噛み付いてやろうと思ってでもできなかった。
真夜中。飛行機の音で目が覚めた。
空には満月。薄紫色の、まっすぐな飛行機雲。
あんなに月に近くて、あんなにまっすぐ。あんなに綺麗。
あぁ、あぁ、あれは主の乗っている鉄の翼に違いない。
あたしは夜空を見上げ、長く、長く、吠えた。
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