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病室にて
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作詞 条峙 |
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「貧乏は恥ずかしいことじゃない」そんな台詞が口癖で
うまくいかないことだらけの僕をいつも見守ってくれた
喧嘩して負けた時も責めもせずに抱き締めてくれた
そんな母が今は病室のベッドの上 機械に繋がれた細い体
うつろな目は僕に焦点を合わせることなく 動きを繰り返す
もう戻らない記憶なんだってね やっと会話ができた時
僕と初対面のように接して名前すら呼ばなかった
僕と母が過ごした18年間は綺麗に消えていた
寝ている母と手を繋ぐ細すぎる手を 怖いぐらい冷たい体温
医者から下された病名を思い出す 別れへと向かう体
過ぎていく日々の分だけ終わりが近づいていく
もう僕のことなんか記憶に残ってないんだろう
それでも日々を嘘にしたくなくて言葉をかけてみる
「あの時、意地張って食べ切らなかったお弁当、本当はおいしかったよ。
うちの子は万引きするような子じゃありませんって
言ってくれたあの時、本当はつい魔が差してやっちゃったんだ。
いつも迷惑かけてごめんね。いい子じゃなくてごめんね。
今更親孝行したいって思うの遅すぎだよね。
俺さあ、何でいつもこうなんだろ。」
言葉は届くはずもない 僕のことだって誰か分からない
けれど話が終わった時 確かに笑顔に見えたんだ
刻々と磨り減っていく 二人が傍に居られる時間
夕焼けが窓から入り込み そっと病室を濡らした
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